数式はなぜ文字を使うのか?

【要約】
数式がなぜ文字を使っているのかを説明するために、代数や数式の役割を言葉との対比から解説します。数式に関する深い理解を育むことで、数式の変形、解釈が容易になり、数学全般の能力の向上に繋がると思います。このページを読むと、定数、変数、恒等式、方程式の違いが分かり、着目する変数による数式の解釈の変更などにも理解が深まります。

【目次】
1.代数の始まり
  1-1.代数学の特長
2.文字は何を表しているのか?
  2ー1.言葉はどうできているのか?
  2ー2.数式の中にある文字も言葉と同じ
3.数式は何を表しているのか?
  3ー1.文字が表している同じ特徴とは何か
  3ー2.特徴と関係の同値性の応用、定義と条件について
4.数式の何を聞かれているのか?
  4-1.定数、変数
  4-2.恒等式

中学生で方程式を学んで以来、数式を使って数学の問題を解くことには慣れてきていると思います。初めは、数式の使い方を学び、数学の問題をその使い方に当てはめて変形すれば自然と答えが出る、そのことさえ理解して、間違えのないように数式を使えることができれば、まずはそれで十分なのだと思います。

しかし、数学の内容が難しくなってくるほどに、数式の基本的な意味を理解していることが、正しい数学の理解に直結してくるようになります。そこで、このページでは、なぜ数式に文字を使っているのかという疑問への答えから始めて、数式で何を考えているのかという、数式に対するより深い疑問への答えを解説していきたいと思います。

代数の始まり

数式を用いる数学は、正式には代数と呼びます。数学の分野としては、代数学と言います。数の代わりに文字を用いて考える数学という意味を表しています。代数学の淵源は、諸々の時代や地域に見られますが、現代に直接つながる代数学の始まりは、教科書(数研出版、高校数学の教科書、以下同じ。詳しくは、高校数学マスター基本方針:参考にする教科書を参照ください)にもある通り、8~9世紀頃のアラビアの学者アル・フワリズミとされています。

彼が初めて著した代数学の教科書の名前は、英語で代数学を意味するアルジェブラの語源となったそうです。ここで指摘したいのは、現代のように数学に文字を使えるようになったのは8世紀頃からで、それまでは数学に文字を使うという発想がきちんとは成立していなかったということです。

代数学の特長

では、どんな数学があったのか、と想像してみたくなるほど、現代において代数は当たり前の存在になっていますが、それまでは、数学を考えるには具体的な数字を使って考えたり、言葉で考えたりすることはできても、数式を使って式変形をしていく、というような代数的なことはできなかったということになります。

代数が生まれる以前を想像すると、その不便さが容易に分かります。数学を考えるのに、一々具体的な数字を使って考えるのでは、何かをまとめて考えるには煩雑になってしまいます。一方で、言葉で考えたり説明するのでは、まとめて考えることはできますが、言葉の意味や文脈によって曖昧さが生まれてしまいます。

つまり、具体的な数や言葉では、数式のように数学の考えをまとめて考えたり、簡潔に正確に考えることは難しいと言えます。逆に言うと、それが数式の特長と言えます。数式は、数をまとめて考えたり、正確に考えたりするのに便利なのです。

それでは、どうしてそのような特長が数式にはあるのか、どうしてそのような特長が生まれるのか、ということをこれから説明して行きたいと思います。

文字は何を表しているのか?

まず、それには、数式の文字が何を表しているのか?を説明したいと思います。

言葉はどうできているのか?

人の考え、そして、その考えに用いられる言葉がどのようにできているかというと、すべての言葉は何かを表しています。そして、その何かとは、ある程度はすべて同じものでなければなりません。

別の言い方をすれば、一つの言葉が一つの文脈で意味する内容は、誰にとってもある程度、同じでないといけないということです。

例えば、犬という言葉であれば、私がこれまで見て来た犬やあなたがこれまで見て来た犬は、ある程度はすべて同じものです。そこに、犬ではない、猫のような動物が紛れ込んでいて、その動物のことも私かあなたのどちらか一方が犬、と呼び始めてしまったら、私とあなたとの犬という言葉の意味は異なってしまい、混乱することになります。

私たち人は、すべてこのようなことを小さなころからの経験で学んでいきます。つまり、言葉の意味を正解と間違いを繰り返しながら多くの人と共有していくわけです。これは、具体的な物事に関することばかりではなく、「てにをは」のような抽象的な言葉の使い方に関しても同じことです。それぞれの言葉が持つ、ある程度、同じ使い方を学習していくのです。

以上のように、記号としての言葉は、ある程度、同じものに対して付けられます

しかし、すべての物事は、決して、すべて同じものは二つとありません。例えば、私とあなたは違いますが、同じく「人」と呼ばれます。私の飼い犬とあなたの飼い犬は、違う犬ですが同じく「犬」と呼ばれます。

このように、記号としての言葉は、同じものに対して付けられると言いましたが、実際には、異なるものの「同じ特徴」に対して付けられます。

例えば、犬であれば、吠えて、噛む、人に飼われる、という同じ特徴を持ち、その同じ特徴があることで、犬として判別されることになります。あるいは、他のものと区別されることになります。

例えば、私の飼い犬ハルは、吠えて、噛み、私に飼われているので、犬です。しかし、私が昔飼っていた兎(うさぎ)のモモは、吠えも、噛みもしないので、犬ではないのです。

そして、さらにその特徴を、同じ特徴と異なる特徴で整理していけば、分類を作ることができます。

例えば、生き物→動物→哺乳類→犬という分類があったら、それぞれ同じ特徴を共有しているものごとに分類が狭められています。それは、物→物質→化学物質→粒子→素粒子でも、言葉→文法→品詞→助詞→「てにをは」でも、数→整数→自然数→素数でも、同様のことが言えます。

結局のところ、言葉は何を表しているのか?という問いには、言葉という記号は、同じ特徴を持つものを、それぞれの異なる特徴を無視して、まとめて、表している、と答えられることが分かって頂けましたでしょうか。

数式の中にある文字も言葉と同じ

このことは、数式の中にある文字\(x\)でもまったく同様であると言えます。

例えば、数式の中にある文字\(x\)が整数を表しているとすると、整数それぞれは、足し算や掛け算ができるなどの同じ特徴を持っていますが、一方で、正負の違いがあり、大きさが違いますが、まとめて整数と呼ばれます。

数式の中にある文字\(x\)が整数を表している場合の使い方は、基本的に、同じ特徴である足し算や掛け算の場合にはまとめて取り扱い、その正負や大きさなどの異なる特徴を用いる場合には、明示的に条件を示して、一時的な区別をしながら取り扱いをします。

しかしながら、有理数がその\(x\)に混ざり込んで、整数が持たない有理数の特徴を\(x\)に適用してしまうようなことがあっては間違いとなります。

この例を犬という言葉で置き換えてみましょう。

犬にはそれぞれ違いがありますが、日常で犬について話す場合には、大抵の違いを無視して犬について話すことができます。犬は噛むので嫌い。犬は飼い主に忠実だから好き、などです。

ただ、時には、慎重にこれこれの犬という限定付きで話をする場合にも、犬という言葉を使います。「私の」犬は性格が良い、「あそこの」犬は毛並みが綺麗などです。

しかしながら、犬という言葉に猫が混ざり込んで、猫の特徴を犬の話としてしまっては間違いとなります。2~3歳の子供が、僕の犬はニャーとなくよと言ったりしたら、それは間違いだよと親は教えるわけです。

以上の例から、数式の中にある文字\(x\)も、言葉と同様に、同じ特徴を持つものを、それぞれの異なる特徴を無視して、まとめて、表している、ということがお分かり頂けましたでしょうか。

ただ、たった一つ、言葉と数式の中にある文字\(x\)が異なる点は、その文字\(x\)の表している中身を明示的に取り換えることができるという点のみです。数式の中にある文字\(x\)が何を表しているかは、数式の外で言葉や集合などを使って指定します。

文字\(x\)の表している中身を取り換えることができるという点は、便利な反面、きちんと文字\(x\)がその時々に何を表しているのか、を明確に説明したり、読み取ったりしなければ、間違いが起こりやすいということでもあります。

したがって、数式の中の文字\(x\)を間違えずに、正確に使うためには、文脈の中で言葉を正確に使うことと同じで、その文字\(x\)がその時々に何を表しているのか、を明確にすることにあります。

そのための道具が、すでに学んだことのあるはずの集合です。集合について復習したい方は、集合と命題について集合による対象化を参照ください。

たしかに、集合もここで話した言葉の使い方のように、同じ特徴を持つものを、まとめて集合として表し、その上で、それぞれの要素の違いを議論するのでした。

ここまでで、数式の中にある文字が何を表しているのか?がお分かり頂けましたでしょうか。

次は、数式自体が何を表しているのか?を説明したいと思います。

数式は何を表しているのか?

前節では、数式の中にある文字\(x\)は、同じ特徴を持つものを、それぞれの異なる特徴を無視して、まとめて表している、ということが分かりました。

この節では、数式は何を表しているのか?を説明したいと思いますが、そのためには、数式の中にある文字\(x\)が表しているものの、「特徴」とは何かをまず考える必要があります。

文字が表している同じ特徴とは何か

例えば、犬の特徴を考えたとき、犬は吠える、犬は四つ足、犬は尻尾がある、などがありますが、どれもその特徴を表現するためには、少なくとも「犬」という一言では特徴を表せないことが分かります。

あまりにも当たり前のことですが、誰かが「犬」と一言呟いても、「犬」の特徴には何も言及していないということです。

一方で、「犬」という言葉と、例えば、「吠える」、「四つ足」、「尻尾」、などの追加の言葉を用いることが、上記のように犬の特徴を表すためには必要であることが分かります。

そうすると、犬の特徴を表すために用いた言葉「吠える」、「四つ足」、「尻尾」も、やはり言葉ですので、前節の通り「犬」という言葉と同様に、「同じ特徴を持つものを、それぞれの異なる特徴を無視して、まとめて表している」ことが分かります。

例えば、それが「吠える」だとすると、音→鳴き声→吠えるとやはり分類できるわけです。

そうすると、犬の特徴を表す「犬は吠える」という文章には、生き物→動物→哺乳類→犬という分類の「犬」と、音→鳴き声→吠えるという分類の「吠える」が含まれていることが分かります。

さらに、「犬は吠える」という文章には、言葉→文法→品詞→助詞→「は」という分類の「は」が含まれていることも分かり、「犬」と「吠える」の関係を「は」で表しているということが分かります。

つまり、犬の特徴を表した文章である「犬は吠える」とは、「犬」と「吠える」の関係を、主語と述語の関係を示す助詞「は」で表すことだったのです。

このことは、犬の特徴だけではなく、すべての物事の特徴についても同じです。

何かの特徴というと、その何かという主なものに視点が向いてしまいますが、すべての言葉を同等の対象として文章を客観的に解釈すると、特徴とは、あるものとあるものの関係を表現していることである、と捉え直すことができます。

例えば、「犬は吠える」(犬の特徴は吠える)と「吠えるのは犬」(吠えるの特徴は犬によってなされること)は同値なのです。しかしながら、「猫は吠えず」(吠えるは猫の特徴ではない)、「吠えるのは猫ではない」(猫によってなされることは吠えるの特徴ではない)と言えます。

特徴を関係と捉え直せること、関係を特徴と捉え直せること、つまり、特徴と関係の同値性は、すべての物事について成り立つので、数の特徴についても同じことが言えます。

例えば、自然数の特徴と言えば、大きさ、足し算ができる、掛け算ができる、などがありますが、特殊な場合を除き、どれも一つの自然数で表現できるものではなく、大きさは二つの自然数との間の関係、足し算と掛け算は少なくとも三つの自然数の間の関係、で表されるものです。

具体的には、特徴とは、あるものとあるものの関係を表現していることである、ことが分かった上で、数式をよく観察してみると、例えば「\(x>0\)」は、\(x\)で表される何かと、\(0\)という数が\(\ \ >\ \ \)という関係を持っていることを表現していることが分かります。

もう一つ具体例を挙げると、「\(x+y>0\)」は、\(x\)で表される何かと、\(y\)で表される何かと、\(0\)という数が\(\ \ +\ \ >\ \ \)という関係を持っていることを表現していることが分かります。

上記の文章と数式を比べると、「犬は吠える」は、「犬」と「吠える」の関係を、主語と述語の関係を示す助詞「は」で表すことであり、数式「\(x>0\)」は、「\(x\)」で表される何かと、「\(0\)」という数の関係を、大小関係を示す記号「\(\ \ >\ \ \)」で表すことであり、どちらも何かと何かの関係を表現しているという点においては、同じことをしていることが分かります。

つまり、数式もきちんと意味を理解すれば、実のところ文章と同じことをしているのです。

特徴と関係の同値性の応用、定義と条件について

ここで、数式の中にある文字\(x\)が表しているもの、つまり、前述した「同じ特徴を持つものを、それぞれの異なる特徴を無視して、まとめて表している」を、特徴という言葉を用いずに、前節で特徴と同値であることが分かった「関係」という言葉を用いて表現し直せば、次のように言い換えられます。

数式の中にある文字\(x\)は、「他のものたちと同じ関係を持つものを、それぞれが持つ他のものたちとの異なる関係を無視して、まとめて表している」と言えます。

したがって、数式の中にある文字\(x\)の表すものを集合などで定義するには、その「特徴」を列挙して定義することが普通であると感じられると思いますが、同様に、取り扱うもの同士の「関係」を列挙することでも数式の中にある文字\(x\)の表すものを定義することができる、ということが分かります。

そして、実は、物事を定義するには、前者のように特徴を用いて定義するよりも、後者のように関係を用いて定義する方が、定義が正確になりやすい傾向があります。

それは、なぜなら、前者の特徴を用いて何かを定義する場合には、その特徴の意味をさらに定義して、そして、その特徴の定義をさらに定義して、、と定義がなかなか完結しない嫌いがあるからです。

一方で、後者の関係を用いて何かを定義する場合には、取り扱うもの同士は互いに関係によって定義されているので、定義が完結することになります。言い換えると、明示的に示された関係によって定義が言い尽くされる程度が高くなります。

ただ、関係による定義の正確性が高いとは言っても、もちろん、厳密には、その関係を表す言葉などの定義は?、、という指摘がありうるので、定義が完結することはありません。

さらに、関係を用いて物事の定義ができるということから、特徴によって分類を行えたのと同様に、関係を用いて分類を行うこともできることが分かります。

つまり、生き物→動物→哺乳類→犬も、物→物質→化学物質→粒子→素粒子も、言葉→文法→品詞→助詞→「てにをは」も、数→整数→自然数→素数も、関係を用いて分類し直すことができるはずです。

丁度よく、分類の話題が出てきましたので、ここまでで、関係による定義の話は一区切りとし、次に数式と条件についての話をしたいと思います。

まず、特徴による分類は見方を代えると、特徴による物事の限定でもあることが分かります。つまり、特徴によって物事の範囲が狭められていくのが分類というわけです。

このような「特徴」の物事を限定する機能に着目した時に、特徴は、条件と呼ばれることがあります。

例えば、生き物→動物→哺乳類→犬という分類を狭めていく、特徴、あるいは条件は、「動く」→「乳を飲ませる」→「飼われる∧吠える∧噛む、、など」、と言えます。

そうすると、特徴と関係の同値性を踏まえて、「関係」の物事を限定する機能に着目すれば、関係もまた、条件と呼ばれることがあると分かります。

まとめると、特徴は、物事がある特徴を持っているか否かで、物事の範囲を限定することができ、関係は、物事同士にある関係が成立するか否かで、物事の範囲を限定することができると言えます。

そして、数式は、数式の中にある文字が表すもの同士の関係を表していたのでした。

つまり、数式も、文字\(x\)の表すものを、数式で表された「関係」でその範囲を限定する場合には、条件と呼ばれることがあるわけです。

この事実は、回りくどくなりましたが、教科書の「数学Ⅰ > 数と式 > 集合と命題」で学んだ通りのことなのです。(忘れている方は教科書における条件の定義を参照ください)

ここまで理解すると、条件に付いての理解が少し深まったと感じて頂けるのではないでしょうか。

この、数式が関係を表し、関係が条件を表しうるという点が、次節の「数式の何を聞かれているのか?」という数式の理解についての重要なポイントになります。

数式の何を聞かれているのか?

前節から引き続いて話をすると、前節では「数式が関係を表す」ということと、「関係が条件を表しうる」、ということが分かりました。

そして、「数式が関係を表す」、ということは多くの場合、数式は複数の文字\(x,y\)などを含んでいることになります。

そうすると、数式による「関係が条件を表しうる」ということは、視点を変えることで、同じ数式が文字\(x\)の条件にもなりうるし、文字\(y\)の条件にもなりえるということです。

例えば、数式\(xy>0\)は、\(x\)の取りえる範囲によって、\(y\)の取りえる範囲を限定する\(y\)の条件とも考えられますし、逆に、\(y\)の取りえる範囲によって、\(x\)の取りえる範囲を限定する\(x\)の条件とも考えられます。

さらに、条件は命題を構成するので(忘れている方は、教科書か命題について:命題は基本単位を参照ください)、数式の真偽を命題として聞かれる場合もあります。

例えば、命題「すべての実数\(x,y\)について、\(x^2+y^2\ge0\)である」、などです。

このような数式の解釈における視点の二重性、多様性が、数式の扱いにおいて多くの問題を生じさせます。数学、特に数式を用いる場合に多くの混乱が生じる点は、ここにあると言えるかと思います。

それは、ある文章を解釈するときに、その解釈の目的や方向性を明確にしなければならないという問題と同じです。その文章が正しいか否かを議論しているのか、文章の各部分について何が何を何に限定しているのかを明確にしょうと議論しているのか、などです。

例えば、「犬は白い」という文章があったときに、この文章が正しいか否かを問題にすると、反例として黒い犬もいるので、この文章は間違いということになります。

けれど、だからといってこの文章がまったく無意味かというと、そうではなく、犬の中でも白い犬に限定するための条件としては、「犬は白い」が成り立つ場合には、という使い方ができるわけです。

例えば、「犬は白い」ならば、その犬は日光を反射するので夏は涼しい。のように使えます。この文章を、より自然な文章にすると、白い犬は日光を反射するので夏は涼しい。と日常会話にも出て来そうな文章になります。

改めてこの多様な視点を、例えば、数式\(x\ge0 \Rightarrow xy\ge0\)について考えると、「すべての整数\(x,y\)について、\(x \ge0 \Rightarrow xy\ge0\)」という命題は、\(x=1,y=-1\)という反例によって 偽となります。

一方で、この数式を、0以上の整数\(x\)は、「すべての整数\(y\)について、\(x\ge0 \Rightarrow xy\ge0\)を満たす」、と使うと、この数式は0以上の整数\(x\)を\(x=0\)に限定する、0以上の整数\(x\)についての条件にもなるのです。

さらに、ややこしいのは、「すべての整数\(y\)について、\(x\ge0 \Rightarrow xy\ge0\)を満たす」は\(x\)についての条件ですので、\(x\)についての他の条件「\(x=0\)」と組み合わせて、0以上の整数\(x\)について、「(すべての整数\(y\)について、\(x\ge0 \Rightarrow xy\ge0\)を満たす)\(\ \Leftrightarrow\ x=0\)」という命題を作ることもできます。(※参考文献、p.118練習問題4)

これを犬の例に置き換えると「犬が白黒でイギリス原産で羊を追うのが好き \(\ \Leftrightarrow\ \)犬はボーダーコリー」と言えるかと思います。

つまり、数式を使う際には、数式の中の文字が何を表すのかを明確にし、さらに、その数式が何に使われていて、何を問われているのか、を明確にしないといけません。

例えば、文字\(x\)が有理数か整数かでは話が違ってきますし、命題の証明を問われているのか、条件の範囲を問われているのかでも話が違ってきます。さらに、どの文字の条件で、どの文字がその条件を限定するために使われているのか、すべての\(x\)で成り立つのか、ある\(x\)で成り立てば良いのか、などを確認していく必要があります。

言い換えると、数式は、その中の各文字が表す対象間の関係を示しているだけなので、その対象が何なのか、その関係の何を聞かれているのか、例えば、その関係自体の証明なのか、\(x\)によって縛られる\(y\)の範囲なのかなど、を明確にしないと数学の問題は解けないのです。

逆に、この点を明確にすることができるようになると、数学の問題を理解し、解答することが楽になります。

それでは、最後に以上を踏まえて、簡単に「定数」、「変数」、「恒等式」の説明をしてこのページを終えたいと思います。

定数、変数

教科書、数学Ⅰの「数と式」では、変数を「着目する文字」、定数を「数と同様に扱い着目しない文字」、と間接的に定義しています。

つまり、\(x\)を変数、\(a\)を定数として、数式\(x^2+a=0\)を考えると、\(x^2+1=0\)と比較して、\(a\)は\(1\)と同様に扱えば良いということです。

とはいえ、\(a\)はやはり文字なので、これまで説明してきた通り、ある一定の範囲の値を取りえるわけで、その\(a\)の値により、変数\(x\)の値が変わってくるわけです。

例えば、変数\(x\)の取りえる範囲が実数であれば、\(a\le0\)ならば\(x\)は解を持ちますが、\(a>0\)ならば\(x\)は解を持たないという大きな違いが、\(a\)の値によりもたらされます。

したがって、\(a\)は\(1\)と同様に扱うというのは、気分の問題であって、実際には、\(x\)と\(a\)は数式によって、互いに束縛し合う関係にあり、変数\(x\)の取りえる範囲は\(a\)の値によって大きく変化するのです。

さらに、互いに束縛し合う関係自体に、本来、主従はなく、どちらに着目するか、どちらを主とし、どちらを従とするかは、そのときの議論の目的によって変わりえます。

例えば、先ほどは\(x\)を変数、\(a\)を定数と考えましたが、今度は逆に、\(x\)を定数、\(a\)を変数として、数式\(x^2+a=0\)を考えると、\(a=-x^2\)なので\(x,a\)の取りえる範囲が共に実数であれば、変数\(a\)の取りえる範囲は\(a\le0\)であることが言えます。

そのため、問題として出される形としては、実数\(x,a\)について数式\(x^2+a=0\)が成り立つとき、
・ \(x\)を\(a\)で表せ、
・ \(x\)が解を持つ\(a\)の範囲を答えよ、
・ \(a\)の取りえる範囲を求めよ、
などが考えられることになります。

まとめると、定数であっても変数であっても、数式の中の文字なので、互いに取る値によって与える影響は異なりますし、取る値が明確にならなければその与える影響も定まりません。

つまり、定数であるか、変数であるかを宣言することで、どの文字に着目するか、を示唆していますが、それを入れ替えることができないわけでもないことに注意が必要です。

恒等式

最後に、恒等式についてですが、その定義は、教科書によると、「変数にどのような値を代入しても、両辺の値が存在する限り、常に成り立つ等式」と書かれています。

ここでも、数式の使い方、含まれる文字の指定の仕方が、大事だということが分かって頂けると思います。

例えば、数式\(ax^2+bx+c=0\)があったときに、これが実数\(x\)についての恒等式であれば、「すべての実数\(x\)について\(ax^2+bx+c=0\)が成り立つ」、ということと同じで、これは\(a,b,c\)についての条件であり、\(a=b=c=0\)と同値であることが言えるわけです。

一方で、恒等式ではなく、\(x\)の値の\(a,b,c\)による表示を問題にするのであれば、これは方程式の解の問題で、二次方程式の解の公式で解くことができます。

さらに、恒等式ではなく、「ある実数\(x\)について\(ax^2+bx+c=0\)が成り立つ」、のであれば、これも\(a,b,c\)についての条件であり、\(x\)が実数解を持つための\(a,b,c\)が取りえる範囲\(b^2-4ac\ge0\)と同値になります。

この節で説明してきたように、変数、定数、恒等式、方程式という言葉の意味をきちんと理解するには、数式の中の文字が何を表しているのか、数式が各文字のどのような関係を定めているのか、数式に関して何を問われているのか、どの文字に着目し、どの文字がどの文字の条件となっているのか、などを明確に理解することができるようになる必要があります。

数式を用いない数学はほとんどないことからも、数学をより良く理解するためには上記の点を理解することが大きな助けになるだろうと思います。

参考文献:
「論理がはじめてわかる 新・論理考究」本橋信義,幻冬舎メディアコンサルティング,2016年9月27日

公開日:2019年6月20日
修正日:-