命題について

【目次】
1.命題とは
1-1.命題の定義
1-2.命題の役割
1-3.命題は基本単位
2.数学の構成
2-1.命題による分解
2-2.命題と推論

集合と命題について」で、集合と命題は切り離して考えるべきこと、そして、命題の応用範囲は数学に限らず他分野にも広く活かせることを指摘しました。このページでは、命題をきちんと使うことができるように、なぜ命題という考え方が必要かというところから、その使い方までを説明したいと思います。

命題とは

命題の定義

教科書(数研出版、高校数学の教科書、以下同じ。詳しくは、高校数学マスター基本方針:参考にする教科書を参照ください)では、命題とは、正しいか正しくないかが明確に決まる文や式と定義しています。

高校数学マスターでは、論理をできるだけ広く応用できるようになることも目標としていますので、若干、広い意味に命題を捉えて、命題とは、正しいか正しくないかが明確に決まる、あるいは、その判断の対象となる、一まとまりの文章や式を指すこととします。この二つの定義の違いは後ほど分かると思います。

そもそも、学問とは、何かが正しいか正しくないかを判断するためにあると言っても過言ではありません。何かについて正しいか正しくないかどちらでも良いと思えば、人はそのことについて考えもしなければ、議論もせず、探究もしません。

例えば、蚊がどこから湧いて出るのか、そんなことはどうでも良いと思えば、誰も研究しません。しかし、誰かが好奇心を持って「蚊は水溜まりに卵を産んでボウフラとなって蚊になる」ということを正しいと突き止めれば、伝染病を食い止める大切な生物学的な知識になります。初めて蚊の生態を研究した人たちは、「蚊は水溜まりに卵を産んでボウフラとなって蚊になる」という考えが正しいかどうかを真剣に議論したはずです。

このように正しいか正しくないか、ということが判断や議論の土俵に上がっていることが、ただの文章や式が命題と呼ばれるための第一条件となります。それは、その文章や式、つまり、命題が学問的な議論や探究の対象となっているということを意味しています。

命題の役割

一言で言えば、命題は、正しいか正しくないかを正確に考えたり議論するために必要になります。例えば、考えたり議論したりする対象を、命題として明確な言葉にすることは大切なことです。そうでなければ、何を考えていたのか、議論していたのか、人間の記憶力は怪しいものですから、分からなくなったり曖昧になったり変わってしまったりすることがあるからです。

議論をしているときに、相手の言っていることが何なのか忘れてしまったり、いつの間にか話が変わってしまったという経験は誰にでもあると思います。そんなときに、命題を立て、あるいは、そのような時は、議題であったりテーマと呼ばれるかもしれませんが、明確な言葉にして文書に記しておけば、少なくとも言葉の外形上は、一切の変化が生じないで済みます。安心して議論を進めることができます。これも命題を立てることの大切な役割の一つです。

次に、学校の先生の長い授業や職場の上司の長い説諭に、一体何を言われていたのか分からなくなってしまう経験は誰しもがあると思います。「おい、ここ分かっているのか?」と聞かれたときに、ここがどこだか分からないということも多いかと思います。どうして分からなくなってしまうのかと言うと、多くの場合、長い話を長い話のままに聞き流しているからです。

長い話は、長い話一つで成立しているということはありません。多くの意味や考え方の区切りがあり、その区切りが繋ぎ合わされて長い話が構成されています。ここで話が変わった、ということを意識して、話の区切りごとに簡単にまとめながら話を聞けば、長い話も理解がしやすく忘れにくくなります。

命題は基本単位

この例と同じように、長い文章に一つひとつの意味の区切りを付けるという役割が命題にはあります。つまり、長大な考えや理論を構成する基本単位としての役割を命題が果たすことになります。目に見えない一つの基本的な考えを目に見える一つの命題に対応させる、という姿勢が考えることや理論を単純で理解しやすいものにします。

ちなみに、教科書は条件によって構成される命題のみについて議論していますが、その内容を条件とはみなすことのできない、より一般的な命題を取り扱えるようになることも、応用範囲の広い考える力を身に付けるためには大切であると思います。(集合と命題について必要条件と十分条件について:条件とはも参考にしてください。)

前者の条件によって構成される命題とは、例えば「実数\(x\)の二乗は、すべて正の数である」、「すべての実数\(x\)について、\(x>1\ \Rightarrow \ x^2>1\)」、「奇数足す奇数は、すべて偶数である」などであり、もう少し範囲を広げると「あなたは人である」、「鶏はすべて鳥である」なども含まれます。

後者の内容を条件とはみなすことのできない命題とは、例えば「結婚には婚約が必要である」、「われ思う、ゆえにわれ有り」、「考えるならば対象がある」などです。たしかに、これらの命題は推論を行っていますが、仮定と結論の関係をその概念の包含関係に置き換えることは難しいのではないでしょうか。しかし、そのような考え方を取らなくともこれらの命題は非常に正しく感じられます。(推論については後述しています。対偶の証明について:命題の推論関係と集合の包含関係が一致も参考にしてください。)

教科書のように条件によって構成される命題のみについて議論する場合には、条件を命題の基本単位と考えることができます。逆に、多くの場合、そのような命題のみしか数学は考えないとも言えますし、そのような明解な構成に命題を落とし込むのが数学の流儀とも言えます。

その場合、教科書のように、条件と命題を明確に分けて考え、条件に具体的な範囲や値が定められて、真偽が確定した文や式のみを命題と呼ぶことがあります。例えば、「\(x>1\ \Rightarrow \ x^2>1\)」や「\(x>1\)」などは条件で、「すべての実数\(x\)について、\(x>1\ \Rightarrow \ x^2>1\)」や「\(2>1\)」などは命題です。

数学、とくに集合や論理式等で形式を整えた場合には、こちらが通常の命題の定義になります。この定義によると、命題を基本単位と呼ぶのには支障が生じます。

しかし、命題を基本単位とするか、条件等を基本単位とするかのどちらにせよ、論理的に考えるために、物事を明確に文章にする、文章の中を明確に命題にする、命題の中を明確に条件などにする、という流れがあることをきちんと意識することが大切です。教科書のように条件を基本単位とする場合とは、応用は狭まってでもより論理的に考えるために、命題の中身を条件、あるいは、集合や論理式で再構成しています。そのために、基本単位が命題ではなく条件となっているに過ぎません。

このように命題という言葉の取り扱いや具体的な定義は、アリストテレスから始まる過去の論理学、近現代に刷新された数理論理学、その他、分類や文脈によっても異なります。それぞれに異なる理屈や経緯があると考えて良いと思います。しかしながら、命題が真偽の対象となる文章であることは、概ねすべてに共通しています。

数学の構成

命題による分解

目に見えない一つの基本的な考えを目に見える一つの命題に対応させるということ、それはつまり、数学の話に戻ると、教科書に書かれた数学を命題という考えの基本単位に分解していくことに他なりません。簡単に言うと、教科書の内容は、全体が単元(章)に分かれ、さらに単元(章)が分野(節)に分かれ、さらに分野(節)が重要な命題、定義、証明、解説などに分かれていきます。つまり、教科書の内容の骨格は、正しいか正しくないか議論の対象となっている命題を中心に構成されているわけです。

ときに、命題は入れ子のようにもなります。例えば、「三角形の内角の和は180°である」という文章も命題ですが、「三角形の内角の和は180°ならば、四角形の内角の和は360°である」という文章も命題です。そのため、長くなってしまった命題には名前を付けて、何々の定理、何々の補題などと呼ぶことがあります。くわえて命題に名前を付けるのは、その命題の重要性や教科書の内容の中での位置づけを明確にする役割もあります。

逆に言えば、定理、補題、系、その他の文章や式も、命題の定義「正しいか正しくないかが明確に決まる、あるいは、その判断の対象となる、一まとまりの文章や式」にあてはまれば、すべて命題なわけです。ちなみに、既にある命題から新しい命題を作り出す関係には、次に説明する「ならば⇒」、その他に「かつ∧」「または∨」「否定¬」があります。

命題と推論

ある命題はある命題の仮定や根拠になっており、命題Aが正しい「ならば」命題Bが正しい、という関係で結ばれます。この「ならば」を⇒と書いて、「A⇒B」と表現します。例えば、定理A「ピタゴラスの定理が成立」、命題B「二辺の長さが1の直角二等辺三角形の斜辺の長さは√2」とすると、「定理A⇒命題B」が成り立ちます。この「ならば⇒」を推論、あるいは、推論関係と呼び、命題Aから命題Bを推論すると言います。

数学の考えや理論、つまり、教科書の内容はこのように、細かく命題に分解されて、すべての命題が推論によって結び直されて構成されています。この構造を知ると、教科書の理解はとても楽になります。逆に言えば、与えられた問題を考える際には、考えを細かく命題に分解し、その命題を推論の順番に並び直せば答えが出る、あるいは、証明が完成するということになります。

簡単で確実な命題から複雑で難しい命題を一つひとつ段階を踏んで推論していく。これが数学の基本的な作法であり、美しさとも言えます。

興味のある方は、さらに「命題、集合とは何か」をお読みください。

きちんと学んでみたい方は、数学基礎論、数理論理学という分野の本を読んでみてください。

参考文献:
「論理がはじめてわかる 新・論理考究」本橋信義,幻冬舎メディアコンサルティング,2016年9月27日

公開日:2019年3月25日
修正日:-