必要条件と十分条件について

【目次】
1.条件とは
1-1.教科書における条件の定義
1-2.数学などにおける条件の良し悪し
1-3.条件の定義
2.必要、十分とは
2-1.十分条件の説明
2-2.必要条件の説明
2-3.必要条件と十分条件のまとめ
3.言葉の難しさについて

初めて必要条件と十分条件についての説明を受けたときは、何が何のために必要で十分なのか、ごちゃごちゃになって混乱してしまうこともあるだろうと思います。このページでは、本来の言葉の意味からきちんと説明を尽くしていきたいと思います。

条件とは

そもそも、必要条件と十分条件は、必要か十分かに関わらず「条件」なので、まずは「条件」という言葉の意味から確認をしましょう。

教科書における条件の定義

教科書(数研出版、高校数学の教科書。詳しくは、高校数学マスター基本方針:参考にする教科書を参照ください)では、「条件」を変数\(x\)を含んだ文や式で、変数\(x\)の値によって、その真偽が変わるものと定義しています。そして、変数\(x\)の取る値は基本的には集合で定められるのでした。さらに、「条件」によって構成される命題を中心に解説を行います。

数学では、このように命題や「条件」を捉えますが、広く一般的な意味での命題や「条件」には、必ずしも明確な変数\(x\)などが含まれているとは限りません。あるいは、そのような形式に落とし込むことができない場合があります。

数学などにおける条件の良し悪し

変数を含むか否かを別にしても、数学などでは「条件」に含まれる主な言葉の取りえる範囲を明確にして、その包含関係を用いて「条件」の成否を定義づけようとする傾向にあります。それは、「条件」を正確に運用することを論点としているからです。

しかし、このページでは、どんな対象を「条件」と呼んでいるのか、「条件」とは何かを論点としています。くわえて、そのような定義を行うと定義に当てはまった「条件」の正確な運用を行うことはできても、一方で「条件」として定義に当てはめる段階での応用が狭められるようにも感じます。

例えば、「結婚のために婚約する」、「われ思う、ゆえにわれ有り」、「考えるならば対象がある」などのように言葉の複雑な意味や解釈によって真偽の判断がなされる命題には、「条件」という言葉を適用しにくくなると思います。そこで、高校数学マスターの趣旨の通り、数学を含めた広い分野に論理を応用できるようにするために、次の節では、改めて「条件」の定義を考え直してみたいと思います。

ちなみに、実際に数学では「条件」を上述のように定義することで、取り扱うことのできる命題が少なくなる一方で、命題の解釈や推論関係を、真偽の識別による包含関係に対応させて平易にすることができました。このようなことを含めた高度な形式化が現代数学の発展に大きな役割を果たしていると共に、今日の情報科学を理論的に支えてもいます。

例えば、数学の「条件」や集合によって形式化された命題は、プログラミングやデータベースの設計段階ではとても役に立ちますが、前段階の業務の分析や整理の始めには応用しにくいわけです。そこには、手つかずの多義的で不明確な対象がたくさんあるからです。同様に、法律や哲学、日々の仕事などにも応用しにくいわけです。段階や局面に合わせた考え方が重要なのだと思います。

条件の定義

それでは前節で述べたとおり、一般の命題には適用しにくい数学などで用いられる「条件」の定義を、数学を含めた一般の命題に適用できるように見直してみたいと思います。

その際に、通常の数学では、「条件」に範囲や値を定めて真偽が明確に定まった文や式のみを命題と呼びますが、このような命題の定義によると真偽が変わる「条件」を命題とは呼ぶことができず、これから定める「条件」の定義を今度は数学に適用することができなくなってしまいます。それでは、元も子もないので、以降は、「条件」のように命題になることを前提とした文や式を含めて、広い意味で命題と呼ぶことにします。

少し難しいかもしれませんが、そもそも、数学などで命題を「条件」によって構成する理由は、命題の推論関係を「条件」の範囲の包含関係に置き換えて、理解を平易にすることにあります。そのために、命題を「条件」によって再構成しているのです。とくに数学の場合には、「条件」の主な対象を変数で代数化すると共に、その対象範囲を集合で定義しています。つまり、命題を「条件」と集合に分離して再構成しています。このように「条件」がより特殊化されたために、「条件」と命題の定義の住み分けが必要になりました。

しかしながら、この点さえ理解しておけば、「条件」を広い意味での命題と呼ぶことでの誤解は、このページにおいては避けられると思いますし、そのように呼ぶことも自然に感じられるのではないかと思います。なぜなら、命題の主な対象は集合に置き換えられていますが、命題の枠組み、骨格である対象間の関係は条件に残されているからです(命題について:命題は基本単位も参照ください)。

さて、本題の「条件」の定義に話を移したいと思います。

数学一般において、それ以外の学問においても「条件」という言葉の第一に大事な意義は、他の何かが成立するかしないかに関係するという点です。そして、第二に大事な意義は、「条件」自身も成立するかしないかが問題になるということです。そして第三に、その第二の「条件」の成否が、第一の他の何かの成否に関係するという点です。この三点がなければ、それは「条件」とは言えないかと思います。

このような関係を広い意味での命題を使って正確に捉えていくと、まず、「条件」に関係する「他の何か」を文や式で表すと、それは成立するかしないか、つまり、正しいか正しくないか、あるいは、真か偽かが定まるので、命題と言えます。一方で、「条件」も変数\(x\)などが含まれていてもいなくても、結局のところ「条件」が成立するかしないかを問題としているので、同様に命題と言えます。

つまり、ある命題の真偽が、他の命題の真偽に関係するときに、元の命題を「条件」と呼んでいることが分かります。これをきちんと整理すると、条件とは、その真偽が他の命題の真偽に関係する命題である \((1)\)と定義することができます。

必要、十分とは

それでは次に、必要条件と十分条件の「必要」と「十分」という部分の意味の違いについて見ていきたいと思います。

ある命題\(p\)とある命題\(q\)に、命題\(p\)が正しければある命題\(q\)が正しいという、命題\(p\)と命題\(q\)の関係が成立しているときに、この関係全体を命題と捉えなおして命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) と書くのでした(命題について:命題と推論を参照)。

十分条件の説明

この命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) が成立しているときに、結果として命題\(q\)が成り立つか否かに着目して、条件の定義\((1)\)を命題\(p\)と命題\(q\)に当てはめてみます。

そうすると、たしかに命題\(p\)が真ならば命題\(q\)は真と定まるので、命題\(p\)は、命題\(p\)の真偽が他の命題\(q\)の真偽に関係している命題と言え、命題\(p\)は条件と言えることが分かります。

それも、命題\(p\)さえ真であれば、命題\(q\)は必ず真であり、命題\(q\)の成立のためにそれ以外の条件はいらないという意味で「十分な」条件と言えます。

ただし、命題\(p\)が偽であると、命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) は、命題\(p\)が真であることを前提としていて、命題\(p\)が真でなければ当てはめることも用いることもできない命題なので、命題\(q\)の真偽については何も定まらず、したがって、命題\(q\)が偽であるとも言えません。

つまり、命題\(p\)が十分条件の場合には、命題\(p\)が真であれば、命題\(q\)が真であるための十分な条件ですが、かといって、命題\(p\)が偽であるときには、命題\(q\)は偽であるとは言えません。

必要条件の説明

一方で、この命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) が成立しているときに、結果として命題\(p\)が成り立つか否かに着目して、条件の定義\((1)\)を命題\(p\)と命題\(q\)に当てはめたいと思います。

まず、命題\(q\)が偽ならば命題\(\overline{q}\)は真であり、また、命題\(p\ \Rightarrow\ q\)が成立しているのでその対偶(対偶の証明についてを参照)を取れば、命題 \(\overline{q} \Rightarrow\ \overline{p}\) も成り立つので、命題\(\overline{p}\)は真となり、命題\(p\)は偽となります。

したがって、たしかに命題\(q\)が偽ならば命題\(p\)は偽と定まるので、条件の定義\((1)\)を当てはめると、命題\(q\)は、命題\(q\)の真偽が他の命題\(p\)の真偽に関係している命題と言え、命題\(q\)は条件と言えることが分かります。

それも、命題\(q\)が偽ならば命題\(p\)は偽と定まってしまうので、命題\(p\)の成立のためには、少なくとも命題\(q\)が偽ではなく、真でなければならないという意味で「必要な」条件と言えます。

ただし、たとえ命題\(q\)が真であっても、命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) の前提は命題\(p\)が真であることなので、命題\(q\)が真であるときには当てはめることも用いることもできません。そのため、命題\(p\)の真偽については何も定まらず、したがって、命題\(p\)は真であるとも言えません。

つまり、命題\(q\)が必要条件の場合には、命題\(q\)が真であることは、命題\(p\)が真であるために必要な条件ですが、かといって、命題\(q\)が真であっても、命題\(p\)が真であるとは言えません。

必要条件と十分条件のまとめ

まとめると、命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) が成立しているときに、
命題\(q\)が成立するための、命題\(p\)は十分条件であり、
命題\(p\)が成立するための、命題\(q\)は必要条件であると言えるわけです。

このように、命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) が成立していても、命題\(p\)と命題\(q\)でどちらを結果と見てどちらを条件と見るか、結果と条件を入れ替えることができ、ただその条件の、命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) における配置によって、十分条件か必要条件かが定まります。したがって、第一にどの命題が結果であるのか、第二にどの命題が条件であるのか、第三に、結果に対して条件が必要なのか十分なのか、を確認していけば間違えることはなくなります。

ちなみに、命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) の命題\(p\)を仮定、命題\(q\)を結論と呼びます。そのため、ここでは混乱を避けるため、結論という言葉を用いませんでしたが、上記で用いた結果という言葉は、自然な言葉遣いとしては結論という言葉が適当かと思います。

言葉の難しさについて

言葉の意味や物事の捉え方というのは、固定的、絶対的なものではなく、変動的、相対的なものです。国語では、それを文脈と言います。「結論」という言葉は、命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) の中では、命題\(q\)を指します。しかし、命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) をいったん脇に置いておけば、広い意味で命題\(q\)を条件とみなし、命題\(p\)を結論と考えることもできます。その上で、命題 \(p\ \Rightarrow\ q\) 、あるいはその対偶 \(\overline{q} \Rightarrow\ \overline{p}\) は、結論\(p\)が成り立つためには条件\(q\)の成立が必要となる、という結論\(p\)と必要条件\(q\)の関係を導き出す根拠となるわけです。

同様に、本ページの主題である必要条件と十分条件という言葉の使い方においても、命題\(p\ \Rightarrow\ q\)が成立するとき、命題\(p\)は、結論\(q\)の十分条件でもあり、必要条件\(q\)の結論でもある、という二重性が必要条件と十分条件についての理解を難しくしているのだと思います。次の例を考えると分かりやすいかもしれません。

例えば、
\[p\ \Rightarrow\ q \Rightarrow\ r\]
という命題が成立していたとすると、命題\(q\)は、命題\(p\)が成り立つための必要条件でもあり、命題\(r\)が成り立つための十分条件でもあります。つまり、命題\(q\)が必要条件か十分条件かは、どの命題の条件となっているかで決まり、このように二重にどちらであっても良いわけです。ちなみに、命題\(p\)は、命題\(q\)と命題\(r\)が成り立つための十分条件であり、命題\(r\)は、命題\(q\)と命題\(p\)が成り立つための必要条件となります。

最後に、先述した数学の「条件」を適用することが難しかった例に、必要条件と十分条件を適用してみると、
「結婚のために婚約する」の場合には、
婚約は結婚の必要条件、結婚は婚約の十分条件、
「われ思う、ゆえにわれ有り」の場合には、
有ることは思うことの必要条件、思うことは有ることの十分条件、
「考えるならば対象がある」の場合には、
対象があることは考えることの必要条件、考えることは対象があることの十分条件、
となります。

このように、多義的で意味や解釈が複雑な命題であっても推論関係さえ成立していれば、必要条件と十分条件を適用することができます。

参考文献:
「論理がはじめてわかる 新・論理考究」本橋信義,幻冬舎メディアコンサルティング,2016年9月27日

公開日:2019年4月8日
修正日:-